知る由もない There is not the reason to know




「お前には関係ねぇ」


尸魂界
十番隊
執務室
目的の人物は見つかった。
滅多に尸魂界に来れる身ではない一護にとってこの世界にいる間の時間は貴重なものなのだ。

「冬獅郎!!!」

「黒崎…」

久方振りに会った想い人はなんともなしにすぐに返事をくれた。
それはいいが、もうちょっとこう、抱きつくまではいかなくても、何かしら反応が欲しかったのに。

まぁそれが日番谷冬獅郎という人物なのだろう。

「久しぶり。あのさ時間、あるか?」

「そうだな…そこの書類が終われば…「隊長、忘れたんですか!?」」

時間は出来る、と最後まで言わせなかった人物は日番谷の元に行くと、胸の谷間に日番谷の顔を埋めた。
男性であれば、死んでも死にきれないという最も羨ましい場面だ。
だが日番谷にとっては全くの逆。

「ま、松本!苦し…」

「乱菊さん、離してやらないと冬獅郎が窒息死しますから…」

それ程までに松本の胸は凶器なのだ。

「あら、ごめんなさい隊長」

日番谷から少しばかり離れたものの、まだ日番谷から一番近い位置にいるのは変わりない。
どうやら松本は一護を日番谷に近づけさせたくないように思える。

「で、今日何かあったのか?」

日番谷の記憶には、この仕事を終わらせた後の予定はないはずだ。

「忘れたんですかぁ?今日、恋次たちと飲み会やるんですよ?昨日誘ったじゃないですかぁ」

が、しかし日番谷にはそんな事言われた記憶など全くない。
当たり前だ。松本は今日番谷に言ったのだから。

「そんな事言ってたか?」

「も〜っ、隊長ったら最近物忘れ激しいですよ〜」

あたかも自分は言ったと主張したいのだろう。

「俺、参加するって言ったっけ?」

「もちろん言いました!!今日の七時からですよ」

日番谷は唸りながら仕方なさそうに承諾した。

「黒崎…、」

「えっ…あぁなら仕方ないな。また時間がある時でいいから」

久しぶりに会ったのに、と肩を落とす一護だった。
そして、それなら仕方ないと諦めようとしたところ、

「黒崎、お前も来い」

「え?」

思いがけない日番谷からの誘い。
もちろん断わるという言葉なんて一護の辞書にはない。

「いいのか?」

「時間あるなら。黒崎の分は俺が奢るから気にすんな」

そんな事を悩んでいるのではないが。
松本は今どんな顔をしているのだろうか。
案の定、せっかく一護を邪魔できたのに、と嘆いているような顔に見える。

「乱菊さん…、」

「松本。宴会は、大勢の方が楽しいだろ?」

前々から日番谷を誘う文句みたいな感じで言っていた、大勢の方が楽しい、と言う言葉は逆に日番谷から帰ってきた。
それを言われれば今更断れる筈もなく、渋々了承した。

「…も〜、わかりましたっ、ちゃんと一護の席も取っておきます」

「だそうだ。良かったな、黒崎」

「あぁ、有難うな冬獅郎。でも…」

松本は今から宴会の準備に行くのだろう。ドアを開けて、六番隊の方へと向かっていった。

「どうして誘ってくれたんだ?」

二人きりになった執務室。
しん、と静まり返った部屋では日番谷が書類を捲る時の音のみが執務室を覆った。

「…一護には、関係ない」

その中でぽつりと聞こえた声。
その発言元はもちろん日番谷からで。
何故か顔を背けていた。
耳は真っ赤になっていたのを知っているのは一護だけ。

「なんで、俺には関係ないんだよ?」

意地悪し過ぎかな?と思いつつ、質問してみると、可愛らしい声が答えた。

「関係ないったら、関係ない!」

一護を宴会に誘うのだから、関係なくはないはずなのだが、日番谷は一護を誘うだけで、実は緊張しまくりだったのである。

好きな人とは一緒に過ごしたい。
素直に言える筈もなく。
せっかく、何気なく、仕事が終わったら時間があるから、と遠まわしに言いたかったのに、あの副官は邪魔をしてくれた。

「兎に角、せっかく俺が奢ってやるんだから、その…ちゃんと来いよな」

「…もちろん、冬獅郎からの誘いを断る訳ないだろ。まぁ本当は二人きりが良かったんだけど」

その言葉に、ぼっ、と音が出るんじゃないかというほど日番谷の顔は真っ赤に染まった。
たった「二人きりがいいと」言っただけなのに。
一護の言葉にはいつでも初々しい反応をしてくれる。

「…、ごめんな、予定入れちゃって。俺、忘れてたみたいで」

「まぁ冬獅郎があそこで断れるとは思ってなかったけどな。乱菊さん、今日の今さっき冬獅郎に言ったと思うぜ?多分あの反応じゃ昨日は宴会の事なんて言ってないな」

「・・・・・やられた〜!!」

そこまで考えてなかった日番谷。
いなくなった松本に文句を言いたくとも、本人がいない今はこの怒り(?)の矛先はどこへやったらいいのか、と書類が乗っかっている机へなだれ込んだ。

「まぁまぁ、冬獅郎が俺を誘ってくれたんだから、いいだろ?」

「うん。すまねぇ、一護」

それから、日番谷の仕事が終わるまで、終わってから一緒に宴会に行こうと思ったので、一護がソファーに腰掛けようとしたとき。

目の前に黒い蝶-地獄蝶が飛んできた。

「十番隊日番谷隊長は至急一番隊舎へ参られたし。」

と、総隊長直々に地獄蝶を飛ばしてきた。

「なんの用だろ?提出期限過ぎてるものはないはず…」

「兎に角行って来いよ。それまでここで待ってるから」

「悪いな、一護。すぐ戻る」

せっかく、日番谷と二人きりになれたのに。しかし、総隊長からであれば断れるはずもない。

「はぁ〜、なんでこう邪魔が入るかな〜」

ふと出た呟きは、誰もいない執務室に響いた。



***

日番谷が出て行ってから30分ほどたっただろうか。

「只今もどりました〜」

先に松本が帰ってきた。

「あら?隊長は?」

「総隊長から呼ばれて出て行きましたけど…すぐ戻るって言ってました」

「そう、じゃあそのうち帰ってくるか」

一護と向かいのソファーに座って寝っころがった。

「何してるんだ?松本」

「あ、隊長お帰りなさい。宴会場決まりましたよ〜」

「決まったのはいいから、そこの書類片付けて行け」

「え〜」

「じゃあ俺は行かない」

「わかりましたよ〜やります」

仕方なさそうに松本はソファーを離れて執務机の椅子に座った。

「冬獅郎、総隊長からの用事って何だったんだ?」

「…対した事ねぇ。全くあのじいさんは」

はぁ〜、とため息を吐いたあたり本当に対した事はなさそうに思える。
そんな対した事ない事(たぶん)の為に日番谷との二人きりの時間を潰されたかと思うと、腹がたってくる。
まぁ、総隊長に怒りの矛先を向けてしまったら命の保証はないだろう。

一護がこの怒りをどう処理しようか迷っている間、日番谷はさっさと自分の仕事を終わらせた。

「松本、宴会場所はどこだ?」

「口で説明するの面倒なんで、一緒に行きましょvv」

ここでも松本は一護の邪魔をするのか。
宴会場に行く時くらい二人にさせてくれ。側にいる一護は松本に何度目かわからない恨みを覚えた。
それに気づかない日番谷も日番谷だ。
そこは上司なんだから、「面倒くさいなんて言うな」とか一言言って欲しいものだ。

「お前仕事は終わったのか?」

「あと一枚で終わりです!!」

そんな張り切って言わなくても。
まぁ後一枚ならすぐに終わるだろう。


しかし、いつまで経っても松本から終わったという言葉は出てこない。

「松本、わからない所があるのか?」

流石、日番谷は優しい。

「ん〜、ちょっと思い出せなくて…この件って誰が担当したんでしたっけ?」

「田中と駿河だろ?ちゃんと覚えとけ」

「すみませ〜ん、でも隊長のお陰で終わりました!ささっ行きましょ隊長」

さりげなく松本は日番谷の腕をとった。
しかもその後一護を近づけさせないように邪魔ばかりしてくる。



***

邪魔されながら宴会場についた一護達。
宴会場にはすでに面子は揃っていた。
そして、誰もが日番谷を隣に座らせたがって、結局一護は日番谷の隣に座ることができなかった。
しかし、そこで諦める一護ではない。
まず一護の近くに座っている奴ら全員にありったけの酒を呑ませ酔わせた。
徐々に日番谷に近づいていく一護。
やっと日番谷の隣に座っている阿散井の元までたどりついた。

「おい恋次、冬獅郎と俺の邪魔すんなよ!!」

「あぁ?別に邪魔なんかしてねぇよ。ささっ、日番谷隊長、どうぞ」

日番谷に酒を勧める阿散井だが、日番谷は酒を呑もうとはせず、お茶ばかり呑んでいた。

「俺は呑まないから、」

「恋次、冬獅郎に無理矢理酒呑ますな!」

酒を勧める阿散井に困っていたところ、一護が日番谷を助けた。

「何〜!?別にいいじゃねぇか!」

「冬獅郎が嫌がってる事するなって言ってんだ!」

「日番谷隊長のどこが嫌がってんだよ!」

「無理矢理酒呑ますとこだ!」

「嫌がってねぇ!」

「嫌がってる!!」

阿散井と一護は今にも衝突していきそうな勢いで睨み合った。

そして、、、

「「勝負だ!!!」」

戦いが始まった。
種目は宴会の席ということでお決まりの酒一気飲み。

「頑張れ〜阿散井!」

「負けるな!恋次!」

ギャラリーは何故か阿散井の応援ばかり。

「では、阿散井恋次対黒崎一護の勝負を始めま〜す!」

乗り気の乱菊が審判を務め、

「準備はいい?」

二人頷く。
それを見計らって、

「よ〜い、どん!!!」

ゴクゴクゴク…

二人して口から溢れんばかりの酒を飲み干していく。

いい勝負に見えたか、と思ったが、いきなり頭から倒れていく一護。
無理もない。初めて酒を呑むのだ。

やった、勝った!という顔をした阿散井。

「一護!!」

倒れていく一護を見た日番谷は、急いで一護を支えた。

「おい、一護!」

「だ、だいじょう…ぶ、冬獅郎の為ならこれくらい」

がくり、と意識を手放した一護。
一護を支えている日番谷は、松本に後を任せ、一護を引きずって店を出た。

「ったく、なんであんな無理な事したんだよ一護」

「とーしろーと、二人きりに、なりたかったんだよ」

意識を失ったと思われた一護は、実は意識を失ってなどいなかった。

「俺が運ばなかったら意味ないだろ?」

「とーしろーを、信じてた」

後ろから、日番谷の首筋に顔を埋めた。

「…馬鹿」

「とーしろーの為なら、何でもするぜ」

「そーかよ」

「でも、冬獅郎も少しは気づけよな」

みんなが俺を冬獅郎に近づけさせないように邪魔してきた事を。

「何を?」

まぁ冬獅郎らしくていいけど。
少しは気づいて欲しかった。

「・・・お前には、関係ねぇよ」


全部含めて冬獅郎なんだ。





END 08.01.10