メンズバレンタインデー Men's Valentine's Day




「冬獅郎にはこれが似合うと思うんや」

そう言って自慢気に渡された。

「これをどうしろと?」

「決まっとるやん。僕とセックスするときにそれ履いてくれたらええねん」

さらりと変態的な事をいう市丸に鉄拳を食らわせてやった。

「馬鹿か?男の俺がそんなもん履く訳ねぇだろ?」

「冬獅郎は男の子でも絶対似合う。これほどの自信はないで?」

一体これの何処が自慢なんだ?そんな自信なんていらねぇだろ?

「だいたい、何で俺にくれるんだよ?なんかの記念日か?」

そう問うと、市丸は良くぞ聞いてくれましたとでも言うように笑みを浮かべ…

「今日な九月十四日はメンズバレンタインデーって現世じゃ言うんやて」

「そんなの、聞いたことねぇぞ?」

バレンタインデーは聞いたことがある。二月十四日。ホワイトデーは一ヶ月後の三月十四日。メンズバレンタインデー…頭の中で何度か繰り返し唱えてみるも、そんな現世の行事なんて聞いたことがない。

「そやね〜、現世でも知ってる人の方が少ないんとちゃう?」

「じゃあなんでお前が知ってるんだよ?」

「現世行った時、インターネットカフェって言うとこで調べたんや。」

「ふ〜ん。で、何でこれ?」

バレンタインデーは女性が意中の男性にチョコレートを送る日。
ならメンズバレンタインデーは?

「男性が意中の女性に下着を送って愛を告白する日やから」

そう、冒頭で市丸が発した言葉とともに日番谷に渡したものは薄い緑色のブラと、ブラとお揃いの紐パンだった。

「男がそんなん貰っても嬉しくないよな?」

「冬獅郎は女の子みたいに可愛いもん。」

市丸の発言により怒りは爆発寸前。そんな俺にに気付くはずもなく、妄想の海へつかっただろう市丸。顔見りゃわかる。逆に気持ち悪くて見てられねぇ。ここは今のうちに逃げよう。としたが腕はしっかり市丸に捕まっていた。

「冬獅郎、ヤろ?これ履いて」

まだ言うか?俺は絶対ヤらねぇ。そんなの履いてまで恥ずかしい思いなんてしたくねぇんだよ。

「い・や・だ。」

「え〜。」

いい大人がそんな声出してんじゃねぇっての。

「なら別れよ?」

「……は?」

「お別れ。バイバイしよ。ほなな冬獅郎」

「ちょ…、いち…」

反論する前に市丸は俺の前から姿を消した。けど俺にはその顔は見えなかった。なぜ市丸がいきなり別れるなんて言ってきたかもわからない。あんなにくっついてきた市丸が。ここは何でも知ってそうな松本に聞こうと松本が行きそうな場所に赴いた。案の定松本はその場にいた。

「松本、聞きたいことがある」

「あ、もしかして今日の事ですかぁ?ギンから貰いました?下着」

なんで松本が知ってるんた?とは思ったが、そこはあえて放っておいた。

「貰った。で別れ告げられた」

「あ〜今日メンズバレンタインデーと共にセプテンバーバレンタインでもあるんですよ。確か別れを切り出す日です」

二月十四日から丁度半年目ですから。と松本は説明してくれた。
けど俺にはひとつ疑問が残った。

「なんで市丸は俺にその二つをして来たんだ?」

「も〜隊長ったらvvギンが別れるなんて言うわけないじゃないですか〜。隊長の気を引くための冗談ですよ。」

それは本当なのだろうか?よくわからないという顔をしてしまったのか松本は俺に市丸に会いに行ってこいと言ってきた。

「行ってくる」

松本の言葉を信じて素直に市丸に会いに行った。


部屋には市丸が何やら怪しげな本を読んでいる。気配を消してゆっくり顔を近付けて本の内容を見てみると、『S×M。』という見出し。もっと良く見てみれば、Sの下には『ギン』、Mの下には『冬獅郎』と小さく書かれていた。市丸は気配を消している俺に気付かないのか、顔をにやけさせながらだらしない笑みを浮かべていた。

「おい…」

声をかけても自分の世界に旅立っているらしい市丸には届かない。けれど、市丸の声は俺には届いている訳で。市丸の考えなんてお見通し。

「はぁ〜vv冬獅郎があれ履いて○○○や×××してくれたら…きゃーギンちゃん勃っちゃう☆」

気持ち悪ぃ。見なかった、聞かなかった事にしてしまいたい。でも何故別れを告げたのが心の奥に引っ掛かっていて。

「いちまる…、」

少し弱弱しい感じで奴の名前を呼んでみると、すぐに市丸の顔が振り向いた。

「あ、冬獅郎やっと来てくれたvvどないしたん?」

市丸は全く気にしていなかったようだった。イコールやっぱり別れは冗談だったのか?
俺にはさっぱりわからねぇ。

「なんで?別れなんて…」

「…??別れなんて言ってないで?」

「だってあの時…!!」

確かに市丸は『別れよ』って言ったはず。断じて俺の聞き間違いなんかじゃない。

「あの時…?あ〜、あれはまた夜会いましょ?って言う意味vvあの場所ではバイバイまたねって言いたかってん」

そんなの、俺にわかる訳ない。

「もしかして、『別れ』ってあっちの『別れ』思たん?」

俺は頷くしか方法はなかった。俺の勘違いだったってことか。

「冬獅郎を手放す訳ないやんvvなんでそう思ったん?」

「松本が…今日は別れを切り出す日だって言ってたから」

「セプテンバーバレンタイン。確かに今日はそうやけど、僕は最初にちゃんと言ったで?今日はメンズバレンタインデーって。女性に下着を送って愛を告白する日って、な?」

「そう…だけど。」

「不安やった?ごめんな、僕が紛らわしい言い方してもうて」

そういって市丸は俺をそっと抱きしめてくれた。きつくない程度の力を込めて。

「いちまる、今日、あれは履かないけど…」

「ヤる?」

俺が言いよどんで言いたかった言葉をあっさりと返してきた。

「うん…///」

恥ずかしいけど、俺の勘違いだったんだ。市丸が別れるなんて切り出す訳ない。そんなことも信じれなかった。
そのお返しといってはなんだけど。今日は思う存分ヤってやるよ?


けど、市丸が読んでたあの本は何だったんだろ?『S×M。』。気持ち悪い顔して読んでたからそれ相応の本に違いない。
行為が終わった後で聞くのも遅くはないだろう。あの本はいったい何の本だったんだ。と。

その考えは間違いだったと気付くのは翌日の朝だった。





END 07.09.14