「物」と「気持ち」 "A thing" and "a feeling"




「物」と「気持ち」
どっちをやれば喜ぶかなんてすぐにわかるけど、何をどうしたらいいかはわからないんだ。どうしたらいいんだろう。どうしたら喜んでくれるんだろう。

九月十日。冬獅郎はあることで悩んでいた。それは一人の男の為、もとい恋人の為。

「松本、市丸が最近なんか欲しいとか聞いた事あるか?」

「ないですよ〜。そんなこと隊長が良く知ってるんじゃないですか?」

「いや、あいつ何にも言ってこないんだよ。」

軽くため息を吐いて、書類の上に凭れた。そう今日は市丸の誕生日なのだ。去年は何をしたらいいのかわからず、結局考えている途中で九月十日を過ぎてしまった。誕生日が過ぎても、どうしたら良いかわからず、その日から一ヶ月を過ぎた頃にやっとおめでとうと本人に伝える事ができた。たった一言でも市丸は喜んでくれた。だから今年はどうしても伝えたい。そして、けれど気持ちが焦ってどうしたらいいか、どうやって伝えたらいいか手段が考え付かない。

「はぁ〜」

執務室に響くため息。どうせなら、相手から何が欲しいか言ってきて欲しい。自分からなんて恥ずかしくて言えない。

「はぁ〜」

二度目のため息。
松本にとっては雑音に過ぎない。

「隊長、ギンのとこに行ってきて下さい」

「仕事残ってるだろ」

「もう、後一分で休憩時間になりますよ?あ、ほら。もう休憩時間!!」

さぁさぁと日番谷を椅子から下ろして背中を押す。結局、執務室から追い出され三番隊へ向かった。

「十番隊、日番谷だが…市丸はいるか?」

「おるで〜、入り」

許可を得てガラリとドアを開ける。中にはソファに座っている市丸。休憩時間かと思いきや副官の吉良は机について書類を片付けている。つまり市丸はサボり。けど、今の日番谷の頭の中にはそんなことはどうでもよくて。

「あ…のさ、え〜っと…」

たった一言、何が欲しいか聞くだけなのに。それさえ言えない。

「僕、冬との時間が欲しいわ〜」

市丸は日番谷が何を言いたそうにしているかなどお見通し、と言った感じでさりげなく告げた。

「明日非番…取る。じゃ…」

日番谷なりの照れ隠しだろう。
その一言だけ言って十番隊へと戻っていった。

「日番谷隊長、そっけなかったですね?」

「いつもあんな感じやん。可愛えぇなぁ〜vvで、イヅルからは何貰えるんかいな?」

「そうですね。お楽しみは後で、と言いたいところですがどうされますか?」

「今!!今頂戴!?」

何をくれるんだろうと、目を輝かせている自隊の隊長に哀れみな目を向けて。

「はい、どうぞ。」

机の上に置かれたそれは、市丸が溜めに溜めた書類の山だった。

そして極めつけの一言。

「今日中に仕上げて下さいね」

告げて、別の書類を手に執務室を出ていく吉良。

「そんなん誕生日プレゼントやないや〜ん…(涙」

ソファにうなだれたまま呟いた。そのままうつ伏せになり、睡魔が市丸を襲い夢の中へと旅立った。


***

午後十時、日番谷は明日の非番の為に残業していた。

「はぁ、終わった」

仕事を終え、後は自室に戻るだけ。
自室に戻り風呂に入って汗を流し、市丸の自室へと向かった。手にプレゼントを持ち、軽い足音を立てて。

「市丸…、あのさ、」

「ええよ。入り」

「…邪魔する」

スーっとドアを開けて、市丸を見据えた。

「おいで。」

言われた通りに日番谷は市丸の元に行き、膝の上に座らされた。

「誕生日おめでと…」

「あら?今年は早いんやね?もしかしてそれ僕に?」

日番谷が大事そうに抱えてきたもの。

「うん。使ってくれる?」

そういって日番谷が市丸に渡したものは…

「枕?」

大事そうに抱えてきたプレゼントの正体は枕だった。
何故枕なのか。

「九月十日は<寝具の日>って何かに書いてあったから」

だから枕。

「そーなんや。毎日大事に使うなvvじゃぁ、今日はもう遅いし寝よか?」

「うん。俺、市丸の腕枕がいい…。枕持ってきてねぇし」

「ええよ。明日、非番取ってくれたんやろ?どこ行く?」

二人で寄りそって同じ布団で寝て。
市丸は先程日番谷に貰った枕を使って、日番谷は市丸の腕枕で。

「ん〜何処でも良い。市丸が行きたいところで。市丸のために取った非番だから」

「あ、なら一日中僕の側におって?」

「あぁ、わかった。おやすみ」

「おやすみ」

おやすみ、と告げた後も顔が真っ赤なのがわかった。今年はちゃんと言えた、と事と、もう一つの市丸へのプレゼント<素直>。市丸がこのプレゼントに気付いてくれたのかは分からないが、きっと気付いてくれてる。市丸だから。

誕生日、おめでとう市丸。
もう一度夢の中で呟いた。


☆おまけ☆

数日後、執務室でも日番谷から貰った枕を持ってくる市丸。

「冬から貰ったプレゼントなんやでvvえぇやろ?えぇやろ?」

執務室に訪れてきた人達皆に自慢しまくっていた。
夜ではその枕を股に挟んで寝ているとか。
ひとときも枕を放さない。傍から見れば気持ち悪い市丸がいた。

日番谷はそんな市丸を見て一言。

「枕なんてあげなきゃよかった…;」





END 07.09.10