放れ結ばれ Give it up, and it is grown
運命なんて、最初から決まっているんだ。
変えられるって信じてる奴もいるけど、どこにそんな証拠確信があるんだ。
運命は覆せる訳なんて無い。
だから、こんな風になってしまった。
「運命…か……」
十番隊執務室でぼそりと聞こえた言葉。
「どうしたんだ?元気ないぜ?」
「ん…別に。」
今ここに居るのは日番谷と一護だけ。
松本はいつも通りサボりに転じている。
「そうか…。そういえば冬獅郎。明日、現世に行かないといけない任務が入ってきたんだろ?」
今朝の隊主会で言われた事だが、一護は知っていた。
何故知っていると知りたそうな顔をすれば、一護は答えてくれた。
「乱菊さんとすれちがったときに聞いたんだ。」
「そ、う……。」
「本当に大丈夫かよ?」
一護が朝早くに現世から此方へ来たときに見た日番谷は、どことなく元気がないように思えて心配だった。
「あぁ。気にするな。」
書類を書いている手を止めず言う。
そんなところも日番谷らしいのはらしいのだが、今回は心配で堪らない。
「冬獅郎がさ、元気ないと、俺も元気でないんだけど。何か理由があるんだろ?」
怒っているのではなく、優しい声色で言った。
「………」
しかし、日番谷からの返答はない。
「まぁ、話したくない事なら言わなくてもいいけど…。」
好きな相手に無理はさせたくない。
気にはなるが、あまり深く追求しないでいた。
けれど、無言だった日番谷が口を開いた。
「黒崎。あのさ…」
「どうした?冬獅郎。」
「明日、一緒に現世での任務についてきてくれないか?」
いつも一人で頑張っている日番谷なのだが珍しい。
やはり何かあったのだろうか。
一護はジッと日番谷を見た。
「いいぜ。俺は一時も離れず冬獅郎と居たいからな。」
「すまねぇな。」
「冬獅郎、こういう時は『ありがとう』だろ?」
日番谷の頭を撫でるように手をあてた。
「…ありがと黒崎。」
軽く微笑む程度の笑顔だったが一護はホッとした。
「どういたしまして。」
一護も笑顔を返した。
***
「黒崎…」
現世に現れた虚を倒し、さぁ帰ろうとしていた矢先、日番谷は一護の死覇装をくぃっと引っ張った。
「どうした?」
「な…んでもない。」
明らかに何時もと違う日番谷だが、無理して聞き出す事はないだろうとその場は過ごした。
「黒崎、お願いがあるんだけど…」
暫く歩いて、もう虚はいないな、と尸魂界へ戻ろうとしたときだった。
「なんだ?」
日番谷からの願いなんて滅多にないものだから、絶対に聞いてやろうと、目線を日番谷にあわせた。
「あのさ、海に行きたいんだ…一緒に」
海?と不思議に思ったのだが、海なら特に問題はないだろうという事で了解した。
「いいぜ。今からか?」
「うん。」
義骸は持ってきていなかったので、そのまま海に向かう事になった。
海に着けば、この時間帯からか人はまばらだった。
日番谷はゆっくりと波打ち際まで近寄り、遠くを見つめた。
黒崎も日番谷の近くに来て海を見つめた。
「ここで、あいつに告白されたんだ」
呟くような声だったけれど、日番谷は静かに語り始めた。
「あいつ…市丸に。大の大人のくせに、はしゃいじゃってさ。」
「………」
黒崎は何も言わず日番谷の言っている事に耳を傾けた。
「まだ冬なのに水浴びなんかしゃって…。俺にも水をかけてきた。帰ってから俺は案の定風邪ひいたんだ。でも市丸は優しく看病してくれたんだ」
「冬獅郎…」
「それなのに…。やっぱり嘘だったのかな……。勝手に何も言わないで放れて行って。」
「………」
一護は何も言えず、ただジッと日番谷の見ている海を見つめた。
「俺は、市丸にとって邪魔な存在だったのかな…。それならやっぱり俺なんてこの世に存在しなけりゃよかった…」
その言葉を聞いて、一護は視線を海から日番谷に変え、日番谷をギュッと抱き締めた。
「そんなこと、言うなよ。存在しない方がいい魂なんてないんだ。」
「……でも、この思い出はもう消すことなんて出来ない」
「思い出を消すことは確かに出来ないが、新しく作ることは出来る。冬獅郎、俺が前の思い出を忘れるくらいの思い出を作ってやる。だから…」
一旦言葉を区切って、日番谷を真っ正面から見つめる。
「俺と、付き合ってくれ」
目を反らす事などなく、真剣に言う。
「俺を一人にしないか?」
「絶対に。」
迷うことなく答えた一護に日番谷は優しく微笑み、
「いいぜ。その変わり、約束守れよ?」
と二つ返事でOKした。
「当たり前だろ?冬獅郎が一人になりたいなんて言ってきても絶対に一人にさせないからな」
「それは…困るかな」
「はは、なんだよそれ」
二人して笑いあい、夕陽が二人を包む。
それを背景にどちらともなく、誓いのキスを。
「愛してる」
END
07.06.18