乾かす時間は睡眠時間 It is a sleep in time to dry it
土砂降りの様子を表す雨の音が俺と市丸の耳を霞めた。
ザーザーと降り続ける雨は止む術を忘れたような。
「雨、降ってきたなぁ…」
「あぁ止みそうもないな。」
傘を持って来ていない俺達はどうするか悩んだ。
「どうする?ずっとこのままって訳にはいかんやろうし…。」
「そうだな…。」
今俺達がいるのは精霊邸の外れ、森の中心にある大きな木の下。
「走って戻るしかないなぁ。」
「濡れるけどな…まぁ仕方ないか。このまま居てもどうせ濡れるし…。」
確かにこのままいても濡れるだけ。
走って帰った方が逆に風邪を引かずに済むかもしれない。
「冬、こっちおいで?」
結局濡れて帰った。
今は市丸の自室で濡れた体を拭いている。
「冬?どしたん?」
何回か市丸が俺の名前を呼んでるみたい。けど寒くてなかなか声が出ない。
「冬〜?」
「…………寒い……。」
やっと紡ぎ出された声。
濡れた体のまま、その場に座って体を震わせた。
今の季節は冬。雨もそれだけの冷たさを持って俺の体と市丸の体を濡らしていた。
「寒い?大丈夫?ちょお待ってな。今からお風呂沸かしてくるから…。」
「……おぅ…………。」
市丸が風呂場へ向かった後の部屋は、一段と寒くなってしまった感じがした。
「寒ぃ…。早く戻って来いよ市丸。」
先程出て行ったばかりの市丸に向けて呟いた。
スー……
扉が開くと同時に部屋に入ってきた市丸。
「冬、風呂沸かしたから風邪引かん内に入り?」
「うん。市丸は?」
「僕は冬が入った後でえぇよ。ほら、先に入ってき?」
てっきり、一緒に入るとか言うかと思った。
「………市丸も、一緒に入ろ?」
だから俺の方から言ってやった。
それを聞いた後の市丸の顔は驚きで満ちていて。
そんな顔を久しぶりに見た気がした。
「えぇの?」
確認なんかされたら、俺の事嫌いになったのかな、なんて考えてしまったり。
どうせなら即答して欲しかったり。
まぁ即答なんかされたら下心見え見えって感じだけど。
でも別に俺はそんな市丸は嫌いじゃないぜ。
「あぁ一緒に、入ろ?」
「えぇよ。」
でも今日は何か下心はない感じがした。
風呂場について服を脱ごうとしたけど、何か微妙に恥ずかしい…。
裸なんて数えきれない程見られてんのに。
だからなかなか服を脱ぐ事ができない。
「冬、脱がんの?」
そんなこと言われなくたってわかってる。
「……市丸、そっち向いてて…。」
「恥ずかしい?」
絶対今の俺の顔は赤くなっている筈だ。
だって恋人の前で服を脱ぐんだぜ。
事情の時はさ、市丸が脱がしてくれて俺からは脱いだ事無いし。
恥ずかしいに決まってる。
「…っいいだろ!!恥ずかしいもんは恥ずかしいんだ!!」
ちょっとヤケになって言ってみたら市丸には思ってた通りの言葉だったみたい。
「はは、冬らしいな。じゃあ先に入ってるから来てな♪」
「…///」
やっぱり市丸には敵わないと思った。
風呂では何事もなく済んだ。
風呂上がりの俺の体はまだ熱を持っていて、けれど髪の毛からは冷たい水が滴り落ちる。
「冬、ちゃんと髪の毛乾かさな風邪引いてまうで?こっちおいで、ちゃんと拭いたるから。」
市丸の髪の毛だってまだ乾いてないくせに。
拭いてもらった後にお礼として拭いてあげよ。
それくらいしたっていいだろ?
「ありがと。なぁ、市丸。俺の髪乾かしてくれた後はお前の髪を拭いてあげるな?」
「なら僕の髪の毛が乾く前に冬の髪の毛乾かさなあかんな。」
そういうと、俺の頭をタオルで包んで、タオルの上から市丸の大きな手が俺の頭を包んでくれた。
やっぱり市丸の手って落ち着く。
「冬、眠いなら無理せんでえぇよ?」
どうやら俺は髪を拭いてもらっている間に船を漕いでいたみたいだった。
人に髪の毛を触られると眠くなるんだよな。
なんでだろ。
でも寝てしまったら市丸の髪を乾かせない。
「ん〜。市丸の髪を乾かすまでは起きてる。」
「そう?無理はせんでな。」
やっぱり市丸の手って気持ちいい。
「はい、終わり。冬起きてる?」
「起きてる。次俺が乾かす。」
市丸が丁寧に拭いてくれたお陰で髪も傷んでないし、ちゃんと髪先までしっかり乾いている。
次は俺が市丸の髪の毛を乾かす番。
「冬の手は相変わらず小さいなぁ。」
「うるせぇ。いい迷惑だ。」
こんなこと言ってくるけど、本当は冗談で言ってるって事くらいわかる。
実際、俺の手は市丸の何倍も小さいけど。
「冬の手、気持ちいいわぁ。魔法の手やね。」
「そうか?普通だろ?」
魔法の手なんて今時言うか?
まぁ別にいいけど。
って言うかなんか眠たくなってきた。
立ったまま寝れそうな勢いだ。
無理しなけりゃ良かったかも。
でも市丸の髪を乾かしてあげたかったから。
「冬?…寝てしもた。立ったまま寝れる何て器用な子やなぁ。あっ、子は余計やな。」
何か市丸が色々言ってるみたいだけど、なに言ってるのかわからねぇ。
眠たい…。
「よいしょ……っと。ちゃんと布団で寝らなあかんよ。」
ふわふわした所に移されたみたい。やっぱり眠たさには勝てないし、考える事なんてしたくない。
「おやすみ。冬獅郎。」
けど、一つだけ気になる事が…。
市丸の髪の毛が乾くまでちゃんと拭けたかな俺。
明日朝、起きたら聞いてみよ。
声に出すことさえ面倒だけど…
これだけは言わなくちゃ。
「おやすみ。ギン。」
END
07.04.30