珍しいものに嫉妬 I am jealous of a rare thing
今日の市丸は珍しく仕事をしている。
「た、隊長…。僕は嬉しいです。まさかこんな日が来るなんて!!(感涙)」
三番隊副隊長・吉良イズルは市丸が珍しく仕事をしている姿を見て感動した。
だって、こんなに長く机についてデスクワークをこなしている。
普段なら、30分もしないうちに十番隊へ行ってしまうのだから。
しかもその後は何時間も帰ってこない。
「僕もやれば出来るで?それよりイズル…、この書類十番隊へ持って行ってくれへん?」
「えっ?」
吉良が驚いたのも無理はない。
十番隊には仕事をサボってまで、毎日の様に出向いていたあの市丸が、吉良にその十番隊へ書類を持って行ってくれないかとお願いしている。
「なんや?どないしたん?」
「い、いえ…。では提出してきます。」
吉良は市丸に日番谷と何かあったのか聞きたかったのだが、もしそれが原因でサボってしまわれたら、折角の市丸の仕事振りが見れなくなる可能性がある。
なので、サボっていた分の溜まりに溜った書類を決裁し終わった後に聞くことにした。
その頃の十番隊舎では…。
「隊長。ギン、来ないですね?いつもならこの時間にはサボって来てるのに…」
「ん?…あぁ、そうだな…。」
「隊長ってば、寂しいんですかぁ〜?」
「なっ///そ、そんな訳あるかぁ!!!アイツが来ないお陰で仕事が捗って丁度良いんだよ!!!」
内心、日番谷はちょっと寂しい気がしていた。
そんなこんなで松本と言いあってる時に、知っている霊圧を感じた。
それは、三番隊の市丸…ではなく副官の吉良だった。
「日番谷隊長は居られますか?三番隊の吉良です。書類をお持ちしたのですが…。」
同じ三番隊でも市丸ではない。
それは吉良の霊圧を感じた時にわかったのだが、もしかしたら市丸は霊圧を消して、吉良の後ろに隠れ、日番谷を驚かそうとしているのではないか。とも思った。
「入れ…。」
吉良に入室の許可を出し、その後にガラリとドアを開ける音がした。
日番谷が、吉良が入って来たときに言った第一声。
それは「吉良、市丸は?」だった。
普段の日番谷ならば、書類の事を聞いてくる。
それが書類の事ではなく市丸のこと。
「市丸隊長は珍しく仕事をしてらっしゃいますよ。最初はすぐサボりに行くだろうって思ってたんですけどね。今日はサボりにも行かず、ずっと机についていますよ。あの…、つかぬ事をお聞きしますが…日番谷隊長、市丸隊長と何かあったのですか?」
「な、んにも…?心辺りはない。」
「そうですか…。何故でしょう…。この書類も市丸隊長が十番隊に持って行くように言ったんですよ?いつもなら隊長自身が持って行くのに…。」
それを聞いた日番谷は胸のあたりがチクンっと痛んだ気がした。
松本はその日番谷の表情から何かを読み取った。
「隊長、ギンの所に行ってきたらどうです?後の事は私がやっておきますので。」
吉良には耳元で「悪いわね、隊長のあんな顔…見てるこっちが辛いもの…。」と謝った。
吉良としては折角溜った書類を片付けられると思っていたのだが、松本に言われた通り日番谷の顔を見ると今にも泣きそうな表情がそこにあり、仕方なく諦めた。
「隊長、早く行って下さいな♪大丈夫です。しっかりやっておきますので♪吉良とっ」
吉良は『僕もですかぁ〜』といった顔をした。
再び松本が吉良の耳元で「市丸隊長と二人きりにしてやりたいから」と囁いた。
確かに市丸と日番谷、二人の隊長が同じ部屋にいる中、副隊長の吉良が一人いれば位置的に居づらい。
「わかりました。」とまたも諦め、吉良の頭の中には山積みになった書類が浮かんだ。
「ん。なら頼む…。すぐ戻るから。」
「ゆっくりして来てくださぁいvV」
三番隊舎に向かう日番谷の背を見届けながら、松本は良いことがありますようにと祈った。
三番隊舎についた日番谷。
「十番隊日番谷だ。市丸いるか?」
声を掛けても返事がない。
しかし、市丸の霊圧は感じる。
なので、ゆっくりとドアを開けて中に入った。
「市丸?」
「…………」
「市丸……っ」
「…………」
何度呼んでも返事がない。
市丸はドアの方には全然目もくれず、黙々と仕事をこなしている。
仕方なく、日番谷はソファに座り市丸の姿を見ていた。
市丸が仕事をしているのは珍しい。
本当は隊長として、こう在るべきである。
しかし、日番谷としては気に入らない。
確かに市丸の仕事をしている姿はかっこいい。
最初は見とれていたが、段々と『仕事』に市丸をとられてしまった気分で、悲しくなってきた。
「いち、ま…るぅ…。う…ヒクッ…っな、…で、返事くれ…な、…の…っ。」
その泣き声にやっと市丸は日番谷が三番隊執務室にいることを知った。
「えっ?なんや…、泣き声が聞こえてる気が…って、冬っ!?どないしたん!?何で泣いてはるん?どっか痛いとこでもあるんっ??」
「っだっ、て…いちま、るが……っ、何回も…呼んだの…にぃ。こっち、見て…っくれな……っかった…」
「な…泣かんといてや〜。ごめんなぁ〜、仕事に夢中で気付かんかったわ…」
「うっ、い…ちまるは…俺より、仕事の方が…大切?」
その問いに市丸は驚き、嬉しくなった。
日番谷が仕事に嫉妬してくれているという事に。
「そんなわけないやん。僕が大切なんは冬や。さっきは…仕事に集中しとって気付かんかったわ。ごめんな?」
「う、ん…。なら、証拠…見せて?」
証拠=キスと日番谷は遠回しにキスをねだった。
「えぇよ…。けど途中で止めて言うてもやめへんよ?」
「うん…///」
日番谷の了解を得てから片手を日番谷の胸元へ。
もう片方の手は下へと持っていった。
「ひゃっ///や、何して…」
「やって冬が証拠見せて言うたやん。」
市丸の頭の中では証拠=セックスだと改めて日番谷は知った。
「そ、それは…意味、違…。」
「変わらん変わらん。安心しい。気持ち良〜くしたるからなvV」
この後あっさりと日番谷は市丸に食べられてしまった。とか。
「隊長〜?入ってよろしいでしょうか…?」
しばらくして吉良が三番隊舎に帰ってきた。
「ん?イズル?入ってえぇよ。」
「あ、はい。失礼します。」
「なんで自分の隊舎なのに許可取ったん?」
「日番谷隊長が居られると思ったので…。」
「あぁ冬なら、そこ居るで?」
『そこ』と市丸が指を指した場所を見てみると、ソファに寝転がって寝ている日番谷がいた。
「ちょっ〜と可愛いがりすぎてもうたんよ。」
「いつもの事でしょう?そう言えば何故今日は仕事やる気になったんです?」
「ん〜?なんとなくや。理由なんてあらへんよ。」
「はぁ〜。そうですか…。じゃあこの後も仕事やってくれるんですよね?」
机の上を見れば、高く積み上がった書類の山。
日番谷が来るまではちゃんとやっていたのに、それでもこれだけあるのだ。
日頃どれだけサボっていたかがわかる。
「あ〜もぅ止めや止め。冬の寝顔見る方が楽しいわ。ほな、僕、冬を自室に連れてくわ。後は、よろしゅうなぁ〜。」
「ちょっ、隊長〜〜。」
市丸は日番谷を抱えて自分の自室に戻っていった。
その後の吉良の大変さを市丸は知る由も無く…。
市丸の自室では一つの布団にくるまって寝ている二つの影。
日番谷が朝起きたらどんな顔をするのだろうか。
次の日から、仕事をする市丸を誰も見ていない。
『珍しいものは長く続かない。』
END
07.02.18